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タントラへの道 グル2

やがてマルパは自分の目的にかなうじゅうぶんな教えを集めたことを認め、帰国の準備を始めた。

ある大きな町の旅籠屋で例の友人に再会するやいなや、二人はそれぞれの勉学の成果を比べはじめた。

友人はマルパの収穫を見るとせせら笑うように言った。
 「君の集めたものなんぞ一文の値打ちもない。こんな教えは、すでにチベットに伝わっているよ。もっと興味深い希少価値のあるものを集めなければ駄目だ。ぼくは偉い先生たちからすごい教えを授かってきたよ。」


 もちろんマルパは希望をうちくだかれ、意気消沈してしまった。あれだけの時間と財産費やした旅の結果がこれなのだ。
しかし気を取り直したマルパは、ナロパのところに戻ってもう一度やりなおす決心をした。

彼がナロパの小屋に帰り着き、よりエキゾティックで希少価値のある、程度の高い教えを求めると、師から意外な返事が返ってきた。

 「気の毒だがそのような教えはわしには授けられない。そうだな、ククリパという師のところへ行って、教えを受けねばならないだろう。旅は困難だ。とりわけ彼は語句の湖のまん中にある島に住んでいるのだから。しかし、もしそういう教えを授かりたいなら、彼に会うより他にないだろう。」


 そのときすでに絶望のどん底にあったマルパは、意を決してとにかく行ってみることにした。偉大なるナロパでさえ授けられない教えを保持していて、しかも毒の湖に住んでいるとは、このククリパという人物、よほど傑出した師であり崇高な神秘家にちがいない。


 そこでマルパは旅を続け、やっとのことで湖を渡り、島に上がるとククリパを探しはじめた。彼が出会ったのは、何百匹というメス犬の群れに囲まれて暮らしている老いた汚いインド人だった。
それは控えめに言っても、何とも異様な光景だった。

そのような中でマルパはククリパに話しかけようとした。
しかし返ってくるのはまったくちんぷんかんぷんな言葉ばかりだ。
ククリパが話しているのは完全なナンセンスだった。


 いまや、マルパは耐えがたい状況に置かれた。

ククリパの言っていることのわけがわからないばかりでなく、マルパは何百匹というメス犬の群れからたえず身を護っていなければならない。
一匹をやっと手なづけたと思うと、すぐほかの犬が吠えつき噛みつこうとする。

ついに茫然自失となったマルパはすべてをあきらめた。
教えを書き取ることも、どのような秘密の教義を授かることも断念せざるを得なかった。

するとそのとき、ククリパは突然よく通る声でおもむろに理路整然と語りはじめ、犬たちも襲いかかるのをぴたりとやめた。
こうしてマルパは教えを授かったのだ。


 ククリパのもとでの修行を終えると、マルパはふたたび最初のグル、ナロパのもとに帰った。
ナロパは言った。


 「さぁ、今こそチベットに帰って教えるのだ。論理としては教えを学ぶだけではじゅうぶんではない。人生の体験を通して学ぶことが必要だ。そのあとでまた戻ってきてさらに修行するがよい。」


 ふたたび例の求道の友と落ち合ったマルパは、チベットへの帰途についた。
友人もさらに研究を積み重ねていた。
写本の詰まった大きな荷物を運びながら、二人はそれぞれ今回の収穫を披露し合った。

自分の集めた教えを残らず嗅ぎ出そうと執拗に詮索してくる友人の態度をマルパが不快に思いはじめるまでに時間はかからなかった。
ふたりの会話はそのことだけにしぼられ、やがてマルパが自分よりも多くの貴重な教えを集めたこと知った友人は、マルパに対して嫉妬心を抱きはじめた。

渡し舟で川を渡っているときのことだ。
友人は坐り心地の悪さはや、舟の中が荷物で混みすぎていることに不平を言っていたが、一瞬位置を変えて坐りなおすふりをしながら、マルパの写本を全部川に落としてしまったのだ。

マルパは必死になって取り戻そうとしたが後の祭り。
あれほど長い年月をかけて集めた写本のすべてが、あっという間に流れに呑みこまれてしまった。


 深い喪失感を抱いてマルパはチベットに帰った。
旅の話や学んだことについて話題は尽きることがなかったが、自分の得た知恵や体験を証明するものは何もない。

それでもとにかく教えたり他の仕事をしながら数年を過ごすうちに、自分でも意外なことに、あのとき川に落ちた写本をたとえ救うことができたとしても、結局自分にとって何の役にも立たなかったのではないかという気持ちになってきた。

インドにいる間彼がノートに書き取ったのは、授けられた教えの中で自分に理解できない部分だけであり、自分自身の体験の一部になっている教えは書き取らなかった。

わずか数年を経たのちに、そのとき書き止めた教えもまた自分の一部になっていることを発見したのだ。


 そのことに気付いたとき、マルパは教義によって私利を得ようとする欲望をまったくなくしてしまった。

富や名声に対する彼の関心はすでに消えうせてしまい、それよりも真の悟りを開こうと思い立ったのだ。

そこでナロパ師への献上品として金粉を集め、マルパはふたたびインドへ旅立った。
再開するグルへの思慕と教えに対する渇望で胸をいっぱいにしながらマルパは道を急いだ。


 しかし、ナロパとの再開は、前回の出会いとはだいぶ様子が違っていた。
ナロパは非常に冷淡でよそよそしく。
敵意さえ示しているように見え、マルパに会うなりこう言ったのだった。

 「よく戻ってきたな。ところで教伝料の黄金をいくら持ってきた?」


 マルパは相当な量の金粉を持ってきてはいたが、自分の生活費や帰りの旅費は残しておきたかった。
そこで荷物を開くと金粉の一部をナロパに差し出した。
それを見たナロパは、

 「なに!これっぽっちで足りるものか。わしの教えにはもっと多くの黄金がいる。おまえの持っている黄金を全部よこせ。」


 と一喝した。
そこでマルパが少量の金粉を取り出してつけ加えると、さらに全部を要求する。
そんなやりとりをくりえしているうちに突然ナロパが大声で笑いだした。

 「おまえのごまかしでわしの教えが買えると思っているのか? ワッハッハハ・・・・・・」


 ことここに至ってはマルパも降参し、金粉を残らずナロパに手渡さざるをえなかった。

ところがショック!ナロパは袋をあけるいやいなや金粉を残らず空中にばらまいてしまったのだ。


 突然マルパは気も転倒せんばかりの恐慌に襲われた。
何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。
ただ教えを得たいばかりにあれほど骨を折って黄金を集めたのではなかったのか。

ナロパは黄金がいると言い、その代わりに教えを授けてくれるはずではなかったか。
その黄金を投げ捨ててしまうとは!呆然としているマルパに向かってナロパは言った。

 「なぜわしに黄金がいるものか? 全世界がわしにとって黄金だ!」


 それはマルパが自己を開く決定的な瞬間となった。
完全に自己を開き、その教えを受け入れることができた。

その後長年にわたって彼はナロパのもとで厳しい訓練を受けた。

以前のように、ただ教えを教えとして聞くだけでなく、それを生活の中で実践しなければならなかった。

持てるものすべて―――物質的な財産ばかりでなく、心の中に隠されているあらゆることを投げ出さなければならない。
それは開き、ゆだねるたえまないプロセスだった。
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唯我独存

Author:唯我独存
ヨーガ・瞑想暦20年ほど。レイキマスター。日々この瞬間を大切にすることをモットーとする。気付き、寛ぎ、ハートの三つから、今ここにあることを体得し、それを伝えていこうとしている。

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